皆さんこんばんは、ソムリエです。
以前少しだけ告知した東北弾丸ツアー(2日で3軒)をしてきましてジムを巡ってきましたので、今回より3回に分けてそれらを紹介していこうと思います。最早登るとか登りにいきたい遠征というより、ソムリエの仕事としての遠征って感じがすごく強い強行日程。毎度のことながら、ツアーが終わってすぐに体調崩しました笑
クライミングジムTHE STONE SESSION / JAZZY SPORT MORIOKA
さて、第56回となる今回は東北というより全国区で見ても異色を放つジム、
THE STONE SESSION / JAZZY SPORT MORIOKA
(以下TSS)を紹介します。
TSSと言ったらJazzy Sportだったり、DJのchokuさんがいたり、ふたばちゃんがいたり、音楽に溢れていたり、強い人が集まっていたり、東北じゃ数少ないまぶしのジムだったり、色んなものが色んな魅力が詰まりに詰まって溢れかえったジムとして、皆さんご存知かと思います。
TSSにはずっと行きたかったし、行かなきゃとも思っていたし、行く行く詐欺をしていたジムですので、関西に移住する前になんとしても行っておかなければと気合い入れて行ってきました。想像していたよりずっとイカしている素敵なジムで、旅行の日程を変えてまで登っていようか心の底から悩んでしまいました。
正直訪れる前は、色々ありすぎてよく分からないという印象でしたが、実際に足を運んでみて自分の目で見て肌で感じて、それら数多くの要素の1つ1つを知ることはできました。ですが、それを1つの言葉にまとめられるかと言われれば、難しいところです。上手くこの紹介をまとめられるか不安ですが、いつものように文字数マシマシでその魅力の一片でも、皆さんにお伝えできればと思います。
それでは早速紹介していきましょう。
クライミングジムTHE STONE SESSION / JAZZY SPORT MORIOKA
店舗の大きさ:普通
壁高(壁について):普通からやや低め
課題数:多い
課題の傾向:東北STYLE!
グレード感:???(多分辛い)
足洗い場:なし
店舗の大きさ
店舗の大きさは一般的なジムの大きさくらい。大きな倉庫を丸々1つ使っており、一階には受付・ショップエリアとクライミングエリア。2階に更衣室があります。クライミングエリアについては後述しますが、サイズ的にはこちらも一般的な広さ。ショップエリアにはDJブースがあり、こちらは圧巻の一言に尽きます。この規模のブースがジムにあるのも驚きだし、壁に飾られたレコードの数々が最高にカッコいい。ショップにはジャジスポアイテムが豊富に取り揃えられていますので、ついついお財布の紐が緩んでしまうでしょう。私もついついTシャツを買ってしまいました。
壁について
壁は緩傾斜から強傾斜に至るまで豊富にあり、それぞれがなだらかに角度を変えて続いていく形状をしています。実際に訪れてみてすごく意外だったのが、壁の高さ自体はそれほどないんです。4mちょっとあるかないかくらいで、案外低い。ですが、メインの強傾斜は120度・135度・145度と結構角度きつめなので、登攀距離自体は十分にあります。また、リップが持てる形状になっていますので高さをフルに使え、壁の高さの割に長いなという印象でした。高めの強傾斜で上部の振られ落ちをした際中々に恐怖を感じるかと思いますが、ここではそれほど強烈な恐怖感を感じなかったので、上部で安心して全力を振り絞れました。流石に145度の上部じゃちょっと考えましたけどね笑
セットスタイルは変則的で、カラー・ラインセットもあれば、まぶしもしっかりあったり、イベント(ALL DAY)の時にはラインセットだけになったりならなかったりとその時々に合わせた壁になっているそうです。また兎にも角にもホールド感がすごくいい。指皮に突き刺さるようなフリクションのものは少なく、強傾斜やまぶしに適した新旧様々なホールドがふんだんに使われているのが素敵。キーホールドとなる大きめの質のいいホールドが程よいバランスでつけられているのも魅力的で、かなり質の高いまぶし壁になっていました。pusherのBossが135度についているのを発見した時には、目を疑いましたが笑
ちなみに壁はBOTANIX製。今ではBOTANIXといえば曲面壁というイメージが強いかと思いますが、TSSの壁はその前身と言ってもいい形状をしているのです。クライミングウォールにおいて、カンテやコーナーは明確な壁の弱点であるのですが、それらを排除したものが曲面壁であり、曲面壁に至る前段階として、このようになだらかに角度が切り替わっていく壁が出来たそうです。確かに言われてみれば、左の緩傾斜から垂壁に至るまでの間に、既にその片鱗を見て取ることができます。TSSでの壁建ての2件ほど後に流線が美しい、北海道のウィップスが建てられたそうですから、これが建てられる時から既に、曲面壁へのイメージがあったのでしょう。クライミング界の歴史の一端を感じられる壁でありますので、訪れた際にはすぐに取り付かずに、一度壁全体を眺めてみてはいかがでしょうか。感慨深いものですよ。
課題数
課題数はテープ課題だけでもかなり豊富にあります。テープ課題を登りこむだけでも優に一日中遊べてしまえるほどでありますが、この他に日々即興の課題や口伝によって残されていくまぶしの課題があるので、課題が足りないなんていう自体にはまず陥らないでしょう。今回の往訪では時間的な制約があったので時間を決めてテープ課題をトライしていたのですが、まず全然消化できないんです。強度も強いし、癖もあるし、質も量もすごい。その他にまぶしの課題は次々に出てくるし、時間はいくらあっても足りないなと心底思いました。溢れてくるように次から次へと課題が出て来るし、その合間に新しいテープ課題を見つけちゃったりして、楽しすぎて本当に仕方ありませんでした。
課題の傾向
課題の傾向はこれでもかというほどの東北スタイル。しっかり保持って、肩と背中を総動員して足が切れたのを背中を入れて耐えていく強さ溢れるスタイル。ふたばちゃんの登りを思い出してもらえれば、何となくニュアンスは感じて貰えるかと思います。しかしそれでいて、ポジションが非常に気持ちのいい課題が多く、なんだか妙に頑張れました。今まで訪れた中で東北スタイルを強く感じるジムはMOVEMENTとトレイルロックでありますが、そこは僅かに気持ちのいいポジションから軸がズレているような感じがあるのですが、ここはそれがあまり感じられませんでした。なんというか、耐えやすいポジション。またこの他にも深めのクロスやガストンで足が切れる等の、強さ溢れるカッコいいムーブの課題が豊富だったように思います。ちなみに軸がズレていても面白いんですよ。課題の根幹がしっかりしていれば。それが面白いと感じるか感じないかの大きな違いだと思います。ここの課題はどれもその根幹がしっかりしていて、楽し過ぎてテンション上がりっぱなしでした。
また壁の高さがそれほど高くないのでトラバース気味に動く課題が多いので、それもまたガスや東北スタイルのような動きに繋がっているのでしょう。実際に登っていると一手一手の強度が中々に強めなので、トラバースをしていることを感じる余裕は微塵もありません。特に145度付近では角度がなだらかに変化しているので、気付くと意外と横に動いていたり、オブザベをしている時に結構横に動くんだなと思うくらい。とりあえず強傾斜なので手数がしっかりあって、保持感も強めで足が切れてしまうこともしばしばあるので、前腕にも背中や体幹にもガツンときます。でも正直なところ、それさえも忘れてしまうほどにここでのクライミングが楽しくて、登ることに夢中になってしまいました。
グレード感
グレード表記は結構曖昧で、5段階の色分けにてグレード分けされています。それなので、各色の中でもかなり強度にバラツキがあるので、トライする際には入念にオブザベをして強度の程度を推し量り、トライするようにしましょう。特にアップの時。最近ではどこのジムもかなり簡単な低グレードから豊富に取り揃えてあり、下の課題を登ってアップするということも容易ですが、ここではそんなことありません。簡単めとはいえしっかり強度があったり、普通に悪かったりするので、その辺の適当なガバでアップするのがいいでしょう。最近じゃこういうアップの仕方をしなかったので、すごく懐かしい気がしてある意味新鮮でした。
グレード表記が曖昧なので安易にグレードの比較はできませんが、強度強めの課題が豊富ということで、一応辛めと言って差し支えないでしょう。多分。正確に表現するなら『強度強めの課題が豊富』というのが適当かと思われます。まぁでも安心してください。表記が曖昧な分、VOLNYやアングラのように度肝を抜かれることもありませんので、メンタルブレイクの可能性も低めで精神衛生的にすごく優しいんです。それを優しいというか分かりませんが笑
雑記
さて、TSSについて色々書く前に、Jazzy Sport (ジャジースポート)について簡単に紹介しておきましょう。
ジャジースポートは『音楽とスポーツの融合させる女性に優しいハードコア集団』という音楽レーベルであります。音楽レーベルって聞くけどなんぞって思いますよね。少なくとも私は思いました。ネットで調べた限りでの知識ですが、CDを作る会社のことをレーベルと言うようです。大元の会社があって、その下にレーベル(部門的なポジション)、更にそのレーベルと契約してるアーティストと分かれている感じ。だから『集団』なんですね。ちゃんと理解できたわけじゃありませんが、その表現が的を得ているところはなんとなく分かりました。DJというものに対して造詣が深いわけではないので多くを正確に語ることはできませんが、音楽というものについては人並み以上に思い入れのあると自負しておりますので、そこを切り口にTSSをソムリエできればと思います。
私は音楽というものが大好きです。クラシックでもHIPHOPでもJ-popでもロックでもデスメタルでも、リミックスでもオリジナルでも自分にフィットすればなんでも聞きます。今よりも若い頃はロックだメタルだと激しい曲に傾倒しJ-popを心から毛嫌いしていましたが、ある時からカテゴライズや人の評価によって自分の音楽の世界を閉ざしてしまうのは何か味気ない気がして、ジャンルを気にすることをやめました。そもそも音楽って、1つ1つの音が消えてまた新たらしい音が生まれて、その連続性が紡がれて、1つの音楽という形をなすものじゃ無いですか。紡ぐ過程の中でリズムや音色によって大きくその表情を変えるのであって、音楽に垣根なんてないんじゃ無いかと思うのです。そして何より、音楽には人の心を動かす力があります。それはどんな拙い音楽でも、幾何学的に生まれた音楽でも、高度な技術を駆使して作られた音楽でも同じ。聞き手に心がある限り、音は心を動かすのです。勇気付けられたり、奮い立たせたり、落ち着かせたり、悲しませたり。人は自分で思っている以上に音楽から多大な影響を受けているのです。そして音楽を通じて作り手のイメージや思想・思考・センスなど様々なものを受け取り感じることができるので、私は音楽というものが大好きなのです。
TSSで流れていた音楽はあまり馴染みのないジャンルなのでさっぱり分かりませんが、心地良い音とリズムが演出する空間としての完成度というか居心地の良さは、最高でした。ある時は落ち着いてしまうし、ある時はノリに乗って普段以上のパフォーマンスが出せたりするし、いろんな雰囲気が混在しながらそれらが音楽という1つの指標によってうまくまとめられている、そんな空間でした。またそんな不思議空間のためか、他のジムよりも人との距離も随分近くて、全く見知らぬ人が話しかけてきてくれたり、話しかけてしまったり、コミュニケーションというもののハードルがすごく低いジムでもありました。また東北では数少ないまぶしのジムであるのですが、ファイル課題というものが存在しません。即興で作られて、その場でセッションして、口伝によって残されてていく。そこでまた新しいコミュニケーションが生まれて、課題やそれを登ることを通じて言葉以外のクライマーとしてのコミュニケーションも紡がれていくという、理想的とも言えるスタイル。昔はファイル課題があったようですが、1年以上このやり方を続けているそうです。そう考えて実行に移すことは誰しもが出来るかもしれませんが、TSSのように実現させ続けていくのは非常に難しいと思います。だってジムにはいろんな人が訪れるわけですから、いろんな意見があって当然なのです。ともすればこの不便そうなやり方はすぐになくなってしまってもおかしくはなさそうですが、それが成立するのがTSSのスタイルというものですし、不便と思わせないのは音楽などによる雰囲気や環境、お客さんやchokuさんの人柄によるものと言えるでしょう。人との繋がりが薄れ、クライマー同士でもコミュニケーション不足が嘆かれる現代において、このスタイルはかけがえの無いものだと思うのです。訪れた際には是非、勇気を出してセッションの輪の中に入ってみて下さい。それが、TSSを存分に楽しむ一番の方法です。
また余談ではありますが、まぶしの課題では500円でフットホールドを追加してもらえ、逆にキャンパでムーブをこなせば芸術点として20点貰えます(勿論遊びの1つ)。完登よりもスタイルを貫くことを優先するのが、TSSスタイル。最早世界観強すぎて圧倒されてしまいそうですが、郷に入りては郷に従えという言葉もありますから、このスタイルに身を委ねて登りましょう。
気持ちのいい音楽に、最高に面白い課題と心地よい人との距離感にテンションが上がりっぱなしで、どうやら脳みそのどこかが飛んでしまったようで普段以上のパフォーマンスで登れてしまいました。ほんと、最高の一言に尽きます。絞って絞って振り絞って魂のどこかがすり減るまで登り込んでしまうこと間違いありません。ここがホームだったらどんなに楽しいことでしょうか。盛岡にあるジムなのでジム遠征にはなかなか遠いかとは思いますが、ぜひ連休の際にでも足を運んでみてください。
それでは皆さん、またお会いしましょう。