皆さんこんばんは、ソムリエです。
退職日も決まって本格的に大阪移住計画が始まっていくので、多分最後の東北ツアーになるだろうと心残りのジムを巡ってきました。今年は結構東北を巡ったように思います。結構移動する方だと思ってたんですけど、岩手あたり、もっと言えば片道6時間を超えるとかなり億劫になるので、意外と活動範囲狭い方なのかなと最近思い始めました。というか、周りに距離感ぶっ壊れている人たちが多過ぎて、私の活動範囲なんてなんて狭いのだろうと思ったのです。まぁ気の遠くなるような東北道の道のりも、しばらく走れないと思うと少しばかり寂しいものです。本音を言えばまだまだ気になるジムはあるんですけど、一体いつ行けることになるやら。
さて第61回となる今回は、宮城県加美郡加美町にある『ボルダリングスペース やくらいWALL』をご紹介します。
SNSなどで壁を見たことがあるという方は結構いるんじゃないでしょうか。木目の美しい強傾斜はSNSを眺めていても目を惹くものでありますし、大西さんをはじめとした外部セッターを何度も招いてホールド替えを行なっているので、何かしらのタイミングで見たことはあるかと思います。そして何より、真横にビール製造所があると聞いてこれは行くしか無いじゃ無いかと足を運んできました。
まぁちょっとネタバレしちゃいますとこの上なく遠征向きのジムで、泊まり掛けの遠征に行くならここは迷うことなく行くべき。上質な壁に上質な課題、美味しいビールに美味しい食べ物、そして温泉と割安で泊まれるところがコンパクトにまとまっているので、遠征先として完璧でした。
ボルダリングパークやくらいWALL
今回も早速紹介に入りましょう。
店舗の大きさ
店舗はぶな林という地ビール製造所がある施設内にあり、写真で見るよりも随分と広い空間。店内には広々としたクライミングスペースに、充分な広さのレストスペース、また大人でも悠々と寛げるロフトがあります。ロフトの下にはトレーニング用品が設置されていて、追い込む準備も完璧。そして何より、ロフトの下の角材にチョーク跡がついているので、ここでピンチトレに励んでいる方がいる様ですね。あれですね、インスタとかで見かける海外のクライマーのトレーニング風景。色んなジムを巡ってはいますが、これがあるところは初めてだったので、思わず取り付いてしまいました。インスタ映えすると思ったんですよ。もしくは漫画『孤高の人』の宮本くんみたいにバスケットゴールにぶら下がるイメージで出来ると思ったんですよ。実際は一瞬の抵抗もなく落ちましたけどね。ストンって。そもそも私、ピンチ得意じゃありませんでしたわ…。最近多少保持感が上がってきたからって調子乗っていました。あまりこのような設備に触れる機会もありませんので、訪れた際には是非このピンチトレに挑戦してみてください。
また、地味にすごいのが書籍の量。ロクスノはもちろん、80年代の岳人、その他山関係の書籍が大量に置いてあります。こんなに綺麗に揃っているところ、早々あるものじゃありませんよ。クライミングを始めてまだ6年目の若輩者なので、こういった古い雑誌から得る情報は新鮮だったりします。見たことも無いシューズとか、ルートの開拓だとかその時々のコンペの話だとか。今に至るまでの時代の流れを感じることができるので、レスト中の読み物に最適。レストスペースにはとても座り心地の良い椅子がいくつも用意されているので、そこに座って読み始めたらあっという間に時間が過ぎてしまうことでしょう。
壁について
壁はメインウォールだけでも8面あって、それらを大西良治さんがプロデュースしており、とても惹かれる見た目をしています。
メインウォールは垂壁、薄かぶりのコーナー、多面、スラブと緩傾斜が続き、そしてR壁が強弱と2面あります。予想以上に壁のバリエーションがあって、色んな課題を楽しむことができました。薄被りのコーナーエリアはカンテを上手く生かした課題があったり、多面壁では角度の切り返しが絶妙でポジションを合わせるのが難しく、下部と上部で大きく性格の異なる課題が豊富に作られていました。スラブも幅はそれほど広いわけでは無いのですが高さが十分すぎるほどあるので、上部ではヒリヒリするような緊張感を存分に味わえます。
そして特筆すべきは、やはり奥の強傾斜2面ですね。他の壁とは木目が大きく異なり、傾斜や壁の見た目と相まって非常に印象的。この2面はR具合が強弱で分けられており、弱の方は角度の変化が比較的緩やかなので、R壁特有のホールドの変化などを感じながら楽しく登れます。強の方はRがかなり強く設計されており、下部はちょっとしたルーフに近い感じ。ホールドの持ち感や踏み感などの変化も急激で、普段ならガバに感じるホールドも途端に悪く感じられます。既存のイメージが通用しないこの壁は特に面白かったですね。なんだかんだ、この壁に取り付いている時間が一番長かったと思います。またこの2面はホールド感が比較的良いので、足技が多用できるのも楽しいポイントですね。しかしそれも、ポジションが少し変わるだけですぐに使えなくなったりすので、一筋縄では行きません。やっぱりこういう癖のある壁って最高に楽しいですよね。
壁高は5m弱くらいあるので、中々スリルを感じる高さです。薄かぶりのトップ付近は結構ドキドキしますし、強傾斜の方も同様で登りごたえ抜群。どの壁もトップ付近は結構な高さなので流石に最上部までホールドはついていませんが、登攀距離でいえば十分な長さになり、手数もしっかりあって距離感も広めになったりして、ダイナミックな動きがあったりと良い感じ。
キッズウォールや初心者ウォールはメインウォールからも独立し、スタッフの目の届きやすい場所にあるのでお子様連れでも安心。
課題数
課題数は60本前後と遠征先としては十分なボリューム。低グレードから、上は3段までと驚きの品揃え。地方では1級くらいまでしかないジムもあったりしますが、ここはそんな事はありません。なんでも『強いクライマーが来てくれた時に登るものを』とセット毎に3段まで用意しているようです。普通のジムでも2段くらいまでしかありませんよ。それもあってか、ワールドカップに出るような方や、コンペシーンで見かける激強クライマーも足を運んでいるようですね。
また『1撃チェンレジ』なるものがあり、全ての課題を1撃できれば2年間のフリーパスを頂けるとのこと。年パスくらいなら分かるけど、2年ってすごくないですか。年パスが大体10万ちょっとだとして、20万円以上の価値があるわけですよ。ちなみにオープンから1年以上経っていますが、未だチャレンジに成功した人はいないようです。まぁそりゃ、3段を1撃してその上でミスなく60本を登り切れる人なんて限られているでしょうし、それが可能なのは間違いなく人間の領域を超えたクライマーであることは間違いなさそうです。
激強クライマーの皆さんも是非、腕試しに行かれてみてはいかがでしょうか。かなり楽しめると思いますよ。もちろん初中級者や1級・初段あたりのクライマーにも断然オススメ。各グレードが満遍なく揃っていますので、どのレベルでも満足いくまで登り込めます。
課題の傾向
課題は高い頻度で大西良治さんがゲストに入っており、イマドキなコーディネーションっぽい課題に始まり、大西さんのテイストをふんだんに感じる岩っぽいものがあったり、ハンドジャム決め込んだりとバラエティ豊富に楽しい課題が豊富に揃っています。もう少し突っ込んだ話をすれば、比較的保持感はよくてムーブ系の課題が豊富な印象。ホールドの関係性が絶妙に悪かったり、足位置との兼ね合いがいやらしかったりと、思うように登らせてもらえません。
後ほど詳しく書きますが、町営のジムに於いてこのホールドの品揃えは驚かされます。Flat holdのダメコンがあったり、Kilter先生がいて、COREの一番巨大なボリューム(フォントスーパーボリューム)があったりして驚かされます。このCOREのホールド、かなり大きいので普通のジムではまず見かけません。ロックメイトなどの壁が十分に大きいところにはあったりもしますが、この規模のジムにこのホールドがあるというのは中々ヤバいですね。あまり触る機会があるホールドではないので、訪れた際には是非触っておきましょう。
またセット時に安全面にとても気を使っているそうで、危ない動きやリスクが徹底的に排除されております。確かに高さによるスリルなどは感じますが、落ちるか落ちないかギリギリの状況で『下手をすると怪我をするかもしれない』という危機感は全くなくて、登っていてもその意図に薄っすら気付くほど。しかしそれでいて課題のスリルや面白さは全く損なわれていないんですよね。クライミングというものが怪我のリスクを多く含んだものである以上、そういったリスクというのはどうしても付きまといますが、世の中には怪我を誘発するような課題を量産するジムもありますし、それをスリルと感じさせたいのかと思うようなところさえあります。それってダメでしょって話じゃ無いですか。クライミングジムという商業施設である以上、怪我のリスクが高い課題は避けるべきだと思うんですよ。落ち方登り方が下手でクライマーが勝手に怪我をするのは当人の責任だとして、課題に怪我のリスクは多く含ませて良いものでは無いと思うのです。
ここはその辺どこのジムよりも徹底されておりまして、オープンから今に至るまでケガ人は1人もいないそうです。これってジムとしてすごいことだと思うんですよね。課題から伝わってくるこの安全面への意識は、一度味わってみる価値があります。
グレード感
グレード感は、総合すると普通くらい。同じ表記の中でもそこそこに幅があるので、比較的簡単めなものからとびきり辛いモノまでありました。まぁこの辺はセットによりけりですからね。ちなみに前回のセット時は結構辛かったそうです。今回訪れたタイミングでは普通くらいに収まっていました。
雑記
さて、ここまでいつも通りに散々書き散らかしてきましたが、ここからはもうちょっとまとめて話を進めていきましょう。
ここに至るまでの間に少し触れましたが、やくらいウォールは町営の施設なのです。話を進める中で紛らわしいことになりそうだったのでジムという表現を使っていましたが、多分ジムというのは少し語弊があるんですよね。だから施設名も『ボルダリングスペース』となっているのです。これは実際に訪れて話を聞くまで知りませんでした。公共施設のボルダリングスペースは大概お役所の関係でホールド替えの頻度もかなり低めで壁も微妙な雰囲気でいまいち惹かれないなんてことはよくあることですが、ここは壁からしてすごく魅力的。強傾斜2面はR状になっており、その強弱で壁の性格が全く異なるので面白く、多面壁など種類もあって壁高もしっかりあるので登りごたえもあってとても良い。また大西さんをはじめとした外部セッターを呼んで、スタッフの皆さんが精力的にホールド替えを行なっていますので、ほぼジムと言って差し支えないでしょう。一応施設内を見回すと、天井など所々にジムっぽくない感じが滲み出ていますが笑
そもそも、やくらいウォールがあるのが加美町のやくらいリゾートという施設の一角で、この近辺には屋内プールなど町営の施設が沢山あります。ゴルフ場や温泉、温泉宿にコテージ・ペンション、地ビール製造所などなど。クライミング関係なしに遊びに行っても楽しめます。あと町営のボルダリングジムっていうのもすごいけど、町営のビール製造所があるってのもすごくないですか。しかも飲めるレストラン付きなんですよ。飲めるところとジムが町営であるって、素敵な街じゃ無いですか。やくらいウォールのことしか考えないで行ったので、こんなにもバラエティ豊かな地域だということにさっぱり気づいていませんでした。また、リゾート地というだけあってこの近辺は中々の田舎です。ソムリエさんが住んでいるところでさえ霞むほどの田舎でした。とりあえずコンビニは近くにないので、事前に軽食を調達しておくか、近所のレストランなどでランチと言う形になりそうですね。ちなみに近隣には美味しいところが沢山あるらしいですよ。
ちなみにここがどのくらい田舎かというと、やくらいウォールがある一角は街灯などがあるので多少明るいのですが、そこから少し離れるとマジで何もありません。本当に真っ暗。田舎者の私ですら少し萎縮するくらい暗い。しかも熊や猪も出るそうですから、夜道を歩くのはかなりドキドキしましたね。ただこれほどに周りの灯りがないのは大停電した時の夜のようで、びっくりするくらい星が綺麗で、引き込まれるような星空を眺めることができました。なんでこんなことを言うのかといえば、やくらいウォールのほぼ真横に『ぶな林』と言うやくらいビールの製造所があるのです。ビール愛に目覚めたソムリエさんからすればそんな素敵な施設が真横にあったら、飲まないわけにはいかないじゃないですか。そりゃもう心ゆくまでご馳走になってきましたよ。本っ当に、ご馳走様でした。それで泊まるところがやくらいウォールから徒歩10分くらいとのことだったので、しこたま登って飲んだ後に歩いて向かったのですが、そこで初めてこの近辺が結構な田舎だったと気付いたわけですね。はい、気付くのがすごく遅かったです。驚きのあまりちょっと酔いも覚めました。
近隣にはコテージとペンションがあり、コテージはちょっとお高め。ペンションは少し離れたところにあってリーズナブルなお値段で泊まることができるので、そこに宿を取り、これでもかと飲んできたのです。ちなみにこのペンション、通常時でも朝食付きでお一人様5~6000円と中々リーズナブルなのですが、タイミング次第では朝食付きで3500円くらいの時もあるそうです。中はすごくオシャレで綺麗だし、朝食も出来たてをいただけて何よりボリューミー。また、やくらいリゾートが小高い山の上にあり周辺の景色もかなりいいもので、開放的な自然を全身で感じることができます。私の近所は雑然とした整っていない田舎なのであまり綺麗ではないのですが、ここは綺麗に整っていますので、とても居心地が良いところでした。またこのペンションの横のレストランのランチにあるカレーはかなり美味しいと評判だそうですよ。
やくらいビールについて触れたので、そちらも簡単に触れておきましょう。ぶな林ではIPAからピルスナー、ヴァイツェンまで計6種類のラインナップがあり、どれも個性豊かで味わい深いものばかり。中でもお気に入りは吟醸セゾンという日本酒の酵母を使用して作られた限定ビール。これがとても不思議なテイストで、日本酒を彷彿とさせるほのかな甘みとフルーティさに、まろやかな飲み口でエール系が好きな人はハマると思います。これだけは相当に気に入って、2杯飲んでしまいました。ちなみに吟醸セゾンはここ以外では購入が難しいので、気に入ったら自分用とお土産用に買って帰るのがベストな選択ですね。あとで買おうと思ったら、買える場所がここ以外になかった…。また瓶で買うと1本500〜600円(吟醸セゾンはもうちょっと高い)と中々に贅沢な価格帯ですが、ぶな林では90分飲み放題(もちろんやくらいビール全種類ok)で2200円とお得に飲めます。料理もピザやソーセージなどがとても美味しいので、やくらいウォールで登った後の晩ご飯はここで確定。そして歩いてすぐのところに温泉もあるので、そこでまったり疲れを癒してペンションに帰るというのがベストなチョイスですね。まさに遠征にうってつけの環境。登って飲んでゆっくり湯船に浸かり、大自然を感じながら寝起きするというのは、かなり乙なものではないでしょうか。
家族を連れての旅行にも、クライマー同士での東北ツアーにも最適なジムです。壁や課題など、ジムのいたるところにこだわりを感じ、王道を外さないスタイルで登るだけでもとても楽しめました。是非一度、足を運んでみてください。とても有意義な遠征になること間違いなし。
ちなみにリゾート地であるので、GWやお盆時期は結構賑わっているそうです。のんびり登りたい方はその時期を外すようにしましょう。ただ雪が降る時期は地元の方でさえ命の危険を感じるほど雪が積もるそうなので、避暑や連休といった時期が良さそうです。
それでは皆さん、またお会いしましょう。